Eno.358 ルクスリア  自由は想像よりも冷たく - はじまりの場所

この生き物には見覚えが無いはずだった。
龍という生き物はとうの昔に人間によって姿を消し、残ったのは争いの痕跡だけだったとエリクスには聞かされていた。
大きな翼、特徴的な顔、硬いうろこと長いしっぽ。これは彼らの特徴で、生き物としても他とは比べられないような特性がいくつもあったらしい。
しかし、目の前にあるのはそのような言葉がすべて当てはまるものだ。

ボクは恐怖からか、わけのわからない衝動に駆られて、仲間が止める前にその生き物が入っている透明な容器に剣を突き立てた。
甲高い音と共に剣がはじき返される。すると突いたところに僅かなヒビが入っていることがわかった。

《緊急警報 警戒レベル最大 これより当施設は永久に閉鎖されます》

もう一度、ヒビに攻撃しようとした瞬間にまた赤い照明が点灯し、アナウンスが流れた。
仲間はボクの剣がアナウンスの原因だと察すると、ボクを抱えて一生懸命出口を探した。
その時二人が何か言っていたような気がするけど、あまり覚えていない。



その日、旧研究施設から命からがら帰った後、ボクはものすごく怒られた。
ボク自身でもあの衝動の原因がわからなかったけど、エリクスはボクがみんなを危険にさらした以外に同胞が何だとか、何か別のことでも怒っていた。

疲れてすごく眠たかったのに、いつもなら時計の針が回り切るまでに終わるはずが、2回、3回回り切ってもこの時間が終わらなかった。みんな無事だったのに、どうしてだろう。油断してしまった隙に、ボクはうっかり口走ってしまった。

「いつ終わるの?もう寝たいんだけど。」

その瞬間、エリクスは凄い勢いで怒った。こんなに怒っているのを見るのは初めてだった。
そして、こういわれた。

「もうルクスリアは探索には二度と行かせないから!」

今までの眠気が全部吹き飛んだ。
もう探索に行けない?もう”草原”を見ることができない?
ボクの人生の楽しみが、わけのわからないものによって踏みにじられた気がした。
言い返そうとしても、反省したといっても、その日は口をきいてくれなかった。
隣にいたミズチも、ため息をつくだけで何も言わなかった。



みんなが寝静まった後、ボクは寝床をこっそり抜け出してエナジードリンクをできるだけ詰めた探索用のカバンと武器だけ持って、一人で家を出ていった。

もう顔も見たくないという怒りが家出した後の暗い道を照らしてくれた。
今回だけは絶対に家出して自由になる、と心に決めてからはすんなりと”草原”の奥に進めた。


…今思えば、二人に一度もごめんなさいと言えてなかった気がする。








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