Eno.133 兎耳天使ラビト  4.同じ血 - はじまりの場所

 少し年の離れた妹……フェメランサシェルPhemeranthus - El
 草花火の花が綺麗に咲いた日に生まれた子。
 彼女は元気にしているかな。

 妹のことを思うと、胸の奥が少し、ぎゅっと重くなって鈍い痛みが生じる。
 嫌いというわけではなくて……ちゃんと愛してはいるんだけどさ。

 フェメランサシェルはおれと違って、心の性別がはっきりしている普通の女の子だ。
 笑顔が愛くるしくてかわいくて。
 小柄で可憐で、つい守ってあげたくなる。
 よく泣き、それ以上にいっぱい笑う。彼女の笑顔は陽だまりのよう。
 性自認がはっきりしていることに加えて、感受性豊かなこともあり、おれより愛を司る天使としてのポテンシャルはずっと高いだろう。

 
ラビト
おれにないもの明確な心の性別を持っている妹のことが」

 
ラビト
「わたしはいつも、羨ましくて仕方がありませんでした」

 
 同じ親から生まれたというのに、何故これほど異なっているのでしょうか。
 彼女と接する時は、男性の姿をしている方が、僅かばかり気が楽でした。
 性別が異なれば、性質が異なっていても不自然ではありませんから。
 女の人生の先輩として助言を乞われた際、上手く答えることができないことが多く、それがわたしの心の陰りとなっているのです。
 かといって、兄らしい振る舞いというのも、わたしにはよくわかりません。

 姉にもなれず、兄にもなれず。
 上のきょうだいとして、情けないなと思うばかりです。

 そんな不甲斐ないわたしのことを、彼女は慕ってくれました。

「ねえさま、ねえさま。
 いつか、ねえさまの心が晴れる日が訪れることを、祈っていますよ」

 彼女に恥じないきょうだいで在りたい。



 両親はわたしに対し、心の性別が明確になる時期が少し遅れているだけだから安心するように言いました。

――――――
「しかし父様、母様。
 わたしはいつまでも、男の心も、女の心も、無いままかもしれませんよ」

「いつかきっと、わかる日がくる」
「そう深刻に捉えなくて大丈夫ですよ。
 大人になって漸くはっきりする子も、稀にいるそうですから」

 両親との仲は良好ですが、この時言われた言葉に関しては、どうにも心に引っかかるものが残りました。
 曖昧なままでは、いけないのでしょうか。

 ありのままのわたしでは、駄目なのでしょうか。








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